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ようこそバイオスフェア研究のホームページへ Presented by S.Moriya @RIKEN (unofficial)




近年の網羅的な解析の結果、生物界にはいまだに培養されておらず未知のまま存在する生物が数多く存在し、その量は実に生物全体の90%以上に達すると考えられています。これらの生物がこれまで解析の俎上に登らなかったのは、複雑な生物間相互作用の存在のために単一生物として育成することが困難であり、モデル生物化することが難しかったからにほかなりません。現在の生物分野での研究の大部分は、このモデル生物を用いた研究ですが、今後の厳しい生物資源の獲得競争に勝ち抜くためには、すでにアメリカがメタゲノム計画を連邦エネルギー庁傘下の研究機関をはじめとする多くの研究所によって強力かつ組織的に実施することによって実現を期しているように、モデル化されていない未知の生物複合系に対する対応が不可欠です。私たちは、この点に全く新しい観点から切り込み、今後、重点的に実施すべき環境中からの生物資源の獲得と、それによる持続可能な社会構築に向けた基盤技術開発に貢献していきたいと考えています。



現在までに、私たちはシロアリ共生系を主な材料として用いた研究を行っています。この系には木質バイオマスの主成分であるセルロースを非常に効率よく利用するという生態系機能があることが1960年代から続くパイオニア的な研究によってすでに知られています。しかし、多種の原生生物から成るその複合生物系は上述のような非モデル・培養困難性生物から主に成り立っており、そのなかで働いている物質循環の詳細は、現在日本でも最重要課題のひとつとされている植物バイオマスのエネルギー資源化を考える上で非常に重要な貢献を成し得るにもかかわらず、従来の手法単体での解析は困難でした。しかし、これまでに私たちは様々なシロアリ共生系からcDNAライブラリーを構築し、メタトランスクリプトームという新しい概念に沿って新しい機能因子を探索し、独自のユニークな木質多糖類分解酵素群を発見しています。これは、非可食性の植物バイオマスからの効率の良いバイオエタノール生産に必須の技術で、持続可能な社会の形成に必要な、第二世代バイオ燃料(バイオフューエル)として世界的に注目され始めています。



[NEW!] また、平成21年度より新たに藻類に関する研究を開始しました。地球上の大部分を覆う海洋には数多くの微細藻類が棲息しています。その生産量は陸上のバイオマスに匹敵すると共に、雲の出来方を制御したり、海洋の有機物・ミネラル・金属などの動態など、気候制御から地質に至るまで地球環境のコントローラーとして重要な生物群です。また、石油の源となった微細藻類など、応用上も非常に興味深い生物が数多く含まれています。事実、アメリカでは多くのベンチャー企業が航空燃料用などの目的で藻類を利用したバイオ燃料の生産に向けた研究を展開しています。その一方で、微細藻類は知られている種の方が圧倒的に少ないと言われるほどまだ謎に包まれており、その生態系における分子レベルでの機能メカニズムはほとんど手つかずの状態と言っても過言ではありません。逆に言えば、微細藻類の世界にはまだ広大な未知の生化学的プロセスが眠っており、生物学的にも産業応用的にも今後期待が持たれる分野です。我々は、そのような文字通り未知の大洋に、後述の独自のツールを用いて包括的にアプローチしていきます。



現在私たちは、この研究の概念に基づいて、環境中の生物複合系を「丸ごと」包括的に解析する手法の構築を目指しています。すなわち、これまでシロアリ共生系で行ってきた培養を介さないcDNAライブラリー構築とそれを用いた「メタトランスクリプトーム」解析や、さらに機能に近いプロテオーム解析の様な環境微生物群の機能因子動態解析法を用いた、バクテリア、原生動物、微細藻類その他の地球上のあらゆるエコシステムに広く分布する各種未知微生物群からの機能遺伝子・タンパク質を探索する試みを開始しています。



さらに、理化学研究所・植物科学センターの菊池チームリーダーとの共同研究の形でこのような生物複合系において観察される生物間物質代謝解析との組み合わせによって、メタボローム解析に基づいた、全く新しい包括的な生態系機能へのアプローチ法を模索しています。これは、これまでに無い生態系レベルでの生物間相互作用の解明および有用生態系機能・未利用有用遺伝子資源・未知の有用微生物の開発・利用を目指した科学・技術の創出を試みるものと言えるでしょう。



私たちは、このような目的の元で今後様々な研究機関・企業・さらに(精神的に)若いチャレンジングな研究者との有機的な関係を築き、俯瞰的な立場で生物圏を見渡す事が可能な、新しい生物学の一分野・・・「バイオスフェア科学」を切り開いていきたいと考えています。




理化学研究所 基幹研究所 守屋繁春
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